この病症は自律神経(交感神経と副交感神経)の調和バランスが大きく乱れることによって発生します。
多少の乱れは誰にでもありますし,時間の経過と共に無意識の内に自分自身で調節され,バランスもやがて回復しますが,何らかの原因によってスムーズに回復できない状態がこの失調症です。
これは一つの病症を指すものではなく,すべての病症に付随して現れるものと考えた方がよいでしょう。
現れる可能性が考えられる具体的な症状は挙げるときりがない程多く,現れ方(症状の組み合わせ)や範囲、程度には個人差もありますし,これだけで重症、軽症を分け切れるものではありませんので,「自律神経失調症」と診断されただけで落胆されるのはまだ早過ぎるケースの方が多いです。
心の動き(精神活動)も自律神経の働きに影響するため,単に病名に対する恐怖心から病状が悪化することもあります。病状は元々軽いのに,この流れに乗って悪化してしまうのはどうにか避けたいものです。
病名を付けなければ診察を終えられない場合に,とりあえず「自律神経失調症」としておくこともあるようです。
(薬剤師の立場から忖度なしに言いますと,多くがこのような扱われ方をしていると思います)。
漢方治療では,元々無い「自律神経失調症」という病症名に囚われず,他の病症と同様に体質傾向やその時点での全身状態(全体的な情況)などを根拠に,必要な薬を選んで使用します。稀に,薬を使用せず,お話だけで済んでしまうケースもあります。
【追記1】現代医学的な解釈
自律神経について簡単に説明しますと,例えば,私達の手や足は自分の思ったとおりに(随意に)動かすことができますが,心臓の拍動(搏動)、胃腸の消化・吸収、血管の拡張・収縮(血圧の調節)、体温の調節などは,自分の意志では行えません。これら自分の意志で自由に動かしたり調節したりすることのできない器官を無意識の内に(不随意に)規則正しく動かしているのが自律神経であり,生命を維持するために最も重要な神経といっても過言ではないでしょう。
この自律神経は私達の頭の中にある間脳の視床下部という中枢器官の働きによって調節されています。つまり,間脳の視床下部は自律神経の働きに対して指令塔の役割を果たしている訳です。そして,この視床下部には私達の体内の物質代謝、水分代謝、性機能、睡眠などの中枢も含まれています。
自律神経失調症といわれる病症は,この間脳の視床下部の調子が鈍って発生する症状です。またこの神経の中枢器官は各種のホルモンの分泌とも密接な関係がありますので,視床下部の異常は直接ホルモン分泌の異常をまねくことにもなります。
【追記2】中医理論での解釈
これに関する中医の大きな特徴は,自律神経失調症を五臓の機能異常としてとらえていることです。
例を挙げますと,「耳鳴り、腰がだるい、夜間頻尿、白髪、精力減退、前立腺肥大」などは「腎(じん)」の衰え(これを「腎虚(じんきょ)」と言います)と関係していますし,「どうき、不眠、不安感、夢を多く見る、物忘れ、舌の先の痛み」などの症状はみな「心(しん)」と,また「食欲がない、体がだるい、気力がない、手足がだるい、疲れやすい、背中が凝って痛い、慢性下痢」などは「脾(ひ)」と,またさらに「頭痛持ち、イライラ、怒りっぽい、目がかすむ、視力低下、情緒不安定、緊張すると手がふるえる、緊張などの精神的ストレスによって発する下痢や腹にガスがたまって苦しくなるという症状、血圧不安定、生理不順、ある種のヒザ関節の痛み、筋肉のケイレン、ふくらはぎの筋肉の引きつりと痛み」などは「肝(かん)」の機能異常と関係があるという具合です。
ですから,自律神経失調症を治療する場合は,症状を分析して五臓との関連性を調べ,症状の程度や体質の違いに合わせて薬を選択しなければなりません。
また,この自律神経の調節は「肝」の働きが大きく関与しており,自律神経失調症はある種の肝機能異常と密接な関係があると理論づけられています。これは単純に肝炎か否かではなく,体質的なものと考える方が良いでしょう。
本ページは「生活習慣病」中の記事とほぼ同じ内容です。その他の生活習慣病についても述べておりますので併せてご覧ください。
更新:2023/07/22