過敏性腸症候群

■ 過敏性腸症候群の漢方治療

 この病症は一般に,精神が強い緊張におそわれた際に発生する「突発性の下痢症状」のことです(腹痛や腹部膨満感を伴うこともあります)。食あたりや水あたりなどによって発する下痢とは異なり,胃腸そのものには異常な検査所見は無く,ただ下痢症状が突然に発生するというものです。

 いつどこで発生するかわからないため,気楽に家族や友人と旅行もできず,また自由に車を止めることのできない高速道路や電車の中、緊張するような会議や人との面会などでは,それがストレスとなって日常的に「また下痢を起こすのではないか?!」という不安におそわれ,つらく苦しい思いをすることになります。このストレスを伴う症状が長引きますと,胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などを新たに引き起こすことにもなりかねません。

 過敏性腸症候群は近年非常に多く見られ,しかも増加の傾向にあるようです。一般にデリケートな性格で精神的ストレスの影響を強く受けて体調を乱しやすい人に現れやすい傾向があります。

 漢方では(厳密に,中医理論では)この種の病症は“肝と胃腸との間における生理機能面の調和が乱れる”ことによって発生すると考えられています。広く言えば「自律神経失調症」の一種と考えて良いでしょう。例えば,精神的ストレスを強く受けますと,肝が伸び伸びと働くことができなくなり(中医では「肝鬱(かんうつ)」と呼びます),その影響が胃腸の消化吸収の機能に及んで,胃腸の働きを停滞させ,腸管からの水分の吸収ができなくなって溜まった水分がそのまま下痢に至るものです(この胃腸の病症を中医では「肝脾不和(かんぴふわ)」と呼びます)。

 過敏性腸症候群は単純な胃腸の病症ではなく,肝の生理異常も関わる複雑な病症と捉える必要があります。また,この時は一般に下痢症状だけでなく,胃腸内にガスが溜まりやすくなり,排泄によって一時的に楽にはなりますが,ガスが出ずに胃腸内に溜まったままになりますと腹痛も発するようになります。中医で言う「脾胃気滞(ひいきたい)」とはつまり胃腸内にガスが溜まることによって腹部膨満感や腹痛を発することを言います。

 この病症に対して,現代医学では下痢止めの薬を使用します。確かに病状がはっきりしている場合は必要となるでしょう。ただ,この方法だけでは単なる“対症治療”にすぎず,同時にメンタル(精神面)の乱れから生じる肝の生理異常も改善させなければなりません。

更新:2023/07/20


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